近藤文菜のフラワーバスケット✼°

自作の短編のお話公開、メディア活動や被写体活動の報告がメインです♪私のお話で、少しでも癒しを提供できたら幸せです♡

僕のリンダ


 リンダ、ちゃんと話、聴いてるかい?

君はいつも、上の空。夕日を透かした様な瞳で、ボーッとこっちを、見つめるだけ。 

 僕は君の気持ちが、サッパリ分からないよ。

 リンダ、僕等は何年も、一緒に暮らしていたのにね。


 リンダ、覚えてる?僕等がはじめて、出会った日のこと。

 ありきたりな出会いだったね。僕も君も、大切な人に捨てられて、夜道を寂しく、歩いていたね。

 リンダ、君は強いから、泣いたりなんて、していなかったね。逆にぼくは大泣きで・・・君に慰めて貰ったね。

 その時聴こえた女の人の声が、『ヘイ リンダ 泣いてばかりの 恋はもう終わったの』って、歌ってて・・・少し笑えた。

 あの日から、僕は君が、大好きだよ。

 いつだって、今だって。形は変わって、いったけど。


 リンダ、僕等はすれ違いばかりだったね。

 僕の好きな映画、君は5分もしないうちに、夢の中だったね。別に僕は、気にしてないけど。だって僕も、君の好きなものに、興味を持てたためしがなかったし。

 僕はしなかったけど、我が強い君は、自分の好きなものを、僕に押し付けてきたね。相手にしないと、拗ねて拗ねて・・・部屋中をメチャクチャにしたね。

 リンダ、僕はそんな君が堪らなく、愛おしかった。今だって、愛おしいまま。ただ、受け止めるだけの隙間が、心になくなってしまっただけ。


 リンダ、いつだったか君は、突然家を出て行ったことが、あったね。

  音もなく、コッソリと、真夜中に、君は出て行った。

 虫の知らせってやつだったのだろうか?仕事で疲れてきってるはずなのに、夜中に目を覚ました僕。窓の外を見ると、君がフラフラ歩いてゆくのが、見えた。

 その時僕は、走って外に、行かなかった。

 "行ったきりなら 幸せになればいい。戻る気になりゃ いつでも おいでよ。"昔聴いた、綺麗な顔の男の人の歌。僕の気持ちにソックリで、思い出した。思い出して、しまった。

 リンダ、伝わりづらいけど、僕は君の幸せを、一番に祈ったんだ。あの日だって、今だって、祈ってる。ただ君の幸せが、僕の側にあるのか、分からなくなっただけ。


 リンダ、覚えてる?僕等が別れを、決めた日のこと。

 フラフラ出て行った君が、3日ぶりに帰って来た夕方。僕は何も言わずに、涙も流さずに、只々君を、抱きしめた。

 君も何も、言わなかったね。

 嬉しかった。幸せだった。君が温かくて、それだけで、僕の胸も温かかった。

 だから僕は、決めたんだ。君と別れようと。

 "赤い口紅で 鏡に書くけど 文字にならない エピローグ"なんて、美し過ぎる別れの歌が頭をよぎったけど、そんなドラマチックな終わりでは、なかったね。君は赤い口紅なんて、使わないし。

 リンダ、僕等の別れは、どこにでもある様な、ありきたりな別れだったね。だけど、ありきたりでも何でも、別れは、悲しいものだね。だって、さよならって言わなければ、ずっと一緒に、いられたんだから。


 リンダ、君はいつでも、なかないね。そこが素敵だって、ソファに腰掛けた同僚の加藤が言うけど・・・僕はもう少し、ないてほしかったな。悲しいとか、嬉しいとか・・・もっともっと、教えて欲しかった。分かってあがたかった。

 リンダ、今日も君はなかないの?もうすぐ、お別れなんだよ。

 加藤が笑顔で、リンダの手を握った。

 リンダ、いつもみたいに、睨みつけて、暴れたらいいよ。加藤は優しい奴だから、何したって怒りはしないよ。

 だけど君は、大人しかったね。

「家、近いんだから、たまに遊びに来いよ!」

 加藤はそう言って、リンダを連れて、歩き出した。

 リンダ、ねぇリンダ、どうしたんだよ?君はそんなに、僕のリンダはそんなに、しおらしくなかったろ?もっとワガママで、僕の疲れも、気持ちもそっちのけで、ひっかいて、暴れて・・・

「リンダ・・・」

 名前を呼んだ。そしたら涙が、出た。もっと名前を、呼べばよかった。もっと頭を、撫でれば良かった。もっと、もっと・・・僕に甲斐性があれば、良かった。

「ほらさ、お前今仕事忙しいだろ?落ち着いたらさ、迎えに来たらいいよ!なっ?だから・・・リンダはそれまで俺が預かるから、だから、泣くなよー大人の男がさー」

 加藤はわざと茶化すように、笑って言った。そしたら益々、泣けてきた。そんな僕の手を、君がガブリと、噛んだ。

 痛いって、思った。これでいいんだって、思った。

 リンダ、君は最後まで、可愛くないね。だけど、君は本当に、優しいね。今も、出会った日も。ただ少し、愛し方がヘタクソだっただけ、2人とも。

「いいんだ、加藤。リンダとは、これで、いいんだ。」

 

リンダ、ちゃんと話、聴いてるかい?

君はいつも、上の空。夕日を透かした様な瞳で、ボーッとこっちを、見つめるだけ。 

 僕は君の気持ちが、サッパリ分からないよ。

 リンダ、僕等は何年も、一緒に暮らしていたのにね。

 加藤が玄関を出て行った。君を連れて、出て行った。

 ギーっと閉まるドアの隙間から、君の瞳によく似た色が、溢れ込んだ。

「リンダ。リンダ。さよなら、僕のリンダ」

  



引用

『リンダ』竹内まりや

勝手にしやがれ沢田研二

『エピローグ』CHAGE&ASUKA