近藤文菜のフラワーバスケット✼°

自作の短編のお話公開、メディア活動や被写体活動の報告がメインです♪私のお話で、少しでも癒しを提供できたら幸せです♡

恋などではないけれど

【はじめに】

この作品は、書店さんとの話の中で、本をPRすることを目的としたフリーペーパーを創ろう!となった際に、私が書いた文章です。

残念ながらフリーペーパーの作成には至っていないので・・・もしも、そういうフリーペーパー創ってみたい!という書店さんや出版社さんなど・・・どなたでも、いらっしゃいましたら是非お声がけ下さい!!

宜しくお願い致します❁

因みにこの作品のテーマは『本に恋する』です。

それでは、本編へ・・・



 人気のない放課後の図書室。オレンジ色に膨らむカーテン。

 コトンと僕は、いつもの席に腰掛けて、静かに本を開いて前を見る。

 今日もいる。無口に、でも優しそうに、僕に微笑むあの子。

 恋などではないけれど、僕は毎日、あの子に会いに、ここへ来る。


 木炭を片手に、放課後の美術室。僕は真っ白なキャンバスに集まる、光の粒を見つめたまま動かない。

 今日も何も、生み出せない。

 壁に貼られた僕の絵は、1年前にコンクールで金賞を取った絵。

 でも今の僕のキャンバスは、光が踊る白い壁。あの時から僕は、何も生み出せないまま、ずっとここに座っている。

 ガタッと椅子から立ち上がって、僕は自然に歩き出す。

 恋などではないけれど、僕は今日も、あの子に会いに、図書室へ行く。


 「彼のことが、好きなの

 そう告げた、あの子の長くて柔らかい髪が、午後のオレンジに染まって光る。

『あいつは凄くいい奴だから、頑張れ!応援してる!』

 そう言った僕の声は、あの子には決して、届かない。

 恋などではないけれど、僕の胸は小さく、激しく、ぎゅっとなって、苦しかった。


 今日も光が踊る真っ白なキャンバスの前、僕はただ木炭を握って座っていた。

 ふと目に入る、金色に光る僕の絵。

 そろそろ何か、描かなくちゃ

 周りの人からの期待が重いんじゃない。期待に応えられない自分が不甲斐ないんじゃない。ただ、怖いだけ。自分が空っぽになってるみたいで、怖いだけ。

「あぁ!」

 スケッチブックの上に置いた本を、ハラリパラリと風がめくって、勝手に物語をさらってゆく。僕はそれを止めるついでに、1ページ開いて、目を落とす。

ハッとした。オレンジ色に膨らむカーテン、キラキラと踊る光の粒。真っ白なドレスを身に纏ったあの子が、僕の目の前で、笑った。

 恋などではないけれど、何故だか涙が、止まらなかった。


 あの子はくるりと踊るように、走ってゆく。僕はそれを追いかける。

 柔らかく揺れる髪も、薄桃色の細い腕も、夕日でオレンジに染まる白いドレスも、全部全部逃さない様に、走らせる。真っ白なキャンバスの上、手を走らせる。

 描かなくちゃ、描かなくちゃ。

 恋などではないけれど、僕はあの子を、描かなくちゃならない。

 還って行ってしまうから。パラリとめくれる本の中、あの子は還って行ってしまうから。


「久しぶりに描いたと思ったら、女の子か恋か?」

放課後、オレンジ色に染まる美術室。 先生が、ニコニコと僕を茶化して、出て行った。

「いいえ、恋なんかじゃ

 言いかけて、風にめくれる本が目に入る。あの子が還って行った、小さくて、広い世界。

「ありがとう。」

 恋などではないけれど、これは恋なのだ。いつかきっとまた僕は、あの子に会うだろう。もっと大人になったある日、突然に。

 だからそれまで

「さようなら。」

 キャンバスの上、夕日色に染まったドレスのあの子と、光の粒が揺れる。

 僕はそっと、本をカバンにしまった。