6月の女(ひと) ~自作の小さなお話①〜
「私はあなたが、嫌いなの」
あんたは赤い唇で、そう言ったくせに、俺を家に連れ帰った。
昼間から酒、飲んでんの?
だらしなく乱れたタンクトップ姿のあんたは、化粧してる時につけてた口紅みたいな、真っ赤な液体にゆらゆら口づける。
「白いのね、本当に。ずっとそのままの色でいたらいいのに」
嘘つけ。あんたが好きなのは、口紅みたいな、その酒みたいな、深くて艶やかな赤なんだろ?
「はぉー」
赤い香りのため息。しなしなに枯れた、赤いバラ。6月のカレンダーについた、赤いマルと赤いバツ。
あんた、男に捨てられたの?
くちづけてたグラスを置いて、あんたはゆらゆら俺に、触れた。
「赤は嫌いに、なったのよ。あなたも嫌いに、なったのよ」
そう言って、あんたは俺に温かい雫をこぼした。
世の中の女は"ジューンブライド"って、雨の中で永遠を欲しがる。
あんたもそうだったの?
窓の外は、今日もこぼれ落ちる雫で溢れてる。
あんたは今日も、乱れたタンクトップのまま、俺を抱きしめて、泣き続けた。
「本当は、たくさん飾ろうと思ったのよ。たくさん飾ったら、キレイだねって・・・笑っちゃうわよね」
6月に咲き乱れる花は、"移り気"だ。そんなもの、永遠を誓う場に飾るのは、とても"不誠実"だ。
だからあんたは俺のこと、
「だから私はあんたのこと、嫌いになったのよ」
そう言って、あんたはまた、泣いた。電話のベルがずっとあんたを呼んでるのに、あんたは泣き続けた。
俺はあんたの捨ててく愛に染まって、哀しい色になった。
「もしもし。ごめんね、ずっと・・・うん・・・今から出るから!大丈夫!もう、大丈夫だって!あはは・・・」
世界中の雫が枯れ果てた頃、あんたの雫も枯れ果てた。
あんたは青い空の下、やわらかいピンクの口紅を塗って、涼し気なレースのワンピース姿で、部屋を出ていった。
残された俺は部屋の隅、枯れてゆく。あんたの捨てた、愛も哀も、もうすでに色を残してはいない。
レースのワンピースのあんたが、窓の外、楽しそうに揺れる。
6月の花よりも、女の心の方が、よっぽど移り気だ。